1話
境内を隅々まで見て、本殿の裏側から社務所の方まで視たが、祐斗には何も視えなかった。昨日、冬四郎にも呼ばれて行ったが、視えたのは無関係な霊だけだったし今日、西原に呼ばれて来たものの何も視る事はなかった。西原からの依頼を聞いた時、事務所に居たむつは、どっちも事件が神社だし関連はあるかもと言っていたが、考えすぎなだけのようだった。だが、西原は口が滑ったのか捜査がどこまで進んでいるのかは分からないが、同一犯じゃないかと漏らしていた。
「ここには何も居ませんね。どこかに行ったのか…夜にしか出てこないのか分かりませんけど」
「そうか。1つ、良いか?幽霊ってのは移動するもんなのか?昼と夜では居る場所が違うとか」
「それはないですね。ほとんどの場合、亡くなった場所や思い入れの強い所に留まりますから…亡くなった方は思い入れがここには無かったのかもしれませんね」
すらすらと祐斗が説明をすると、西原はまばたきを繰り返してまじまじと祐斗を見ていた。そんな風に見られると、相手が男だとしても何だか恥ずかしくなる。
「祐斗君、何かしっかりしてきたよな。仕事に自信を持ってきたって言うかさ」
「そうですか?そんな事は…まだまだ未熟者です」
「自分の事を未熟だって思えるのは、まだまだ伸びしろがある証拠だな。前までは消極的で、おどおどした感じだったけど。今は違うよ。そりゃむつが仕事を任せるわけだな」
西原に褒められると祐斗は、ますます恥ずかしそうに身動ぎをしたが、素直に嬉しかった。