2話
1度、冬四郎は携帯を取り出してむつにかけたようだが、留守番電話になったのか、不機嫌そうに舌打ちを鳴らした。それを真横、正面で見ていた西原、祐斗は顔を見合わせて苦笑いを浮かべて、酔わないようにと、ちびちびとビールを呑んでいた。
ビールも飽きてきたのか、それぞれが好みの物を呑みながら、ほとんど会話もなく適当に頼んだメニューに箸を伸ばしていると、がらがらと戸の空く音がした。祐斗が振り向いて、首を伸ばすと見慣れた姿がそこにはあった。戸井と小声で何か話すと、かつかつかつとヒールを鳴らしてやってきた。
「ごめん、お待たせしちゃった」
「むつさん」
「むつ、大丈夫なのか?」
「怪我は?」
「むっちゃんおかえり」
むつの顔を見ると、それぞれがてんでばらばらな事を口にした。むつは困ったように笑みを浮かべて、頷いただけだった。鞄を置き、カウンター席から取ってきた灰皿と吸い殻の貯まっている灰皿を交換して、戸井の所に持っていき、暖かい烏龍茶を持って戻ってきた。
靴を脱いで座敷にあがり、マフラーは外してコートを脱いだむつは、居心地悪そうに山上の隣を見た。不機嫌そうな冬四郎が、腕組みをしてむつを見ている。むつは目を合わせたくないのか、その隣にいる西原の方を見たが、それはそれでぱっと顔を背けた。