2話
3人が黙りと呑んでいる頃、仕事を終えた宮前冬四郎は、寒々とした外をのんびりと歩いていた。寒くとも、忘年会シーズンだからなのか外を歩く人々は多い。
寒いのは苦手だが、のんびり、というより足取りが重いのは山上からの呼び出しに応じるのが些か面倒だったからだ。用事はないとはっきり言われたが、じゃあ何の為に呼び出されたのかと思うと尚更、憂鬱だった。
用件も伝えられず、だが予定もないのに行かないというのも何となく出来ない。山上は冬四郎が刑事として働き始めた頃に、色々と教えてくれ世話をしてくれた大事な先輩だった。そうなると、強く断れない自分がいる。
駅を出てから、待ち合わせの戸井の店までは、ゆっくり歩いても15分もあれば着いてしまう。もう目の前には、赤い提灯が見えてきていた。入るかどうか悩んでいると、後ろから近付いてきた足音が冬四郎のすぐ横に並んだ。
「お疲れ様です」
「…西原君…山上さんからの呼び出しか?」
「はい。たぶん、むつの事で話があるんじゃないかと…」
「むつ?また何かあったのか?」
「はい…いえ、えーっと…」
「どっちなんだよ」
「俺もあんまり知らないんで…まぁ行けば分かりますよ。たぶん」
「たぶんが多いな。何か知ってるのか?」
「何にも知らないって事でお願いします‼俺からは何も聞いてないって事で‼」
そうまで言うなら、何か話すのかと思ったが西原は何も教えてはくれなかった。冬四郎は、ますます面倒くさいなと思いながらも西原と共に、暖簾をくぐって店の中に入った。