1話
「何か居そうか?」
「特に気配はないですね」
西原は遺体があった踊り場で、立ち止まると祐斗に聞いた。だが、祐斗があっさりと答えると少し残念そうな顔をした。篠田同様に、西原も幽霊や妖に興味を持ち始めたのかと祐斗は不安になったが西原は特に何も言わずに、肩をすくめてみせただけで、またすたすたと階段を上がっていく。
「今は誰も居ないから。好きなように視てくれるか?って言っても俺はついていくし、むやみに物に触らないでくれな」
境内につくと西原はそう言っただけで、あとは祐斗に任せるという事のようだ。あまり事件の事は詳しく聞いてもいないし、昨日に引き続き、単なる霊視であるなら、視るだけで済む。祐斗は特に構える事もなく、冷たくなった手をパーカーのポケットに突っ込み、ぷらぷらと歩いていく。
さほど広くはない境内には、狛犬が鎮座している。だが、それも手入れをきちんとされている気配はなく、苔むしている。葉の散った木があり、くたびれた感じの本殿。
「…ここって神主さん居ないんですか?」
「お年を召した神主さんが居るけど…滅多に外には出てこないみたいだな。初詣の時には、お守りとか売るのにバイトの巫女さんも来るみたいだけど」
ほとんど何もせず、ただ神主という肩書きと共に社務所に引きこもっているのだろう。地面のコンクリートもひびが入り、隙間からは力強く草が生えている。忘れ去られた神社のようだった。