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1話
「寒いな…」
「車戻る?」
「そしたら、こうしてられない」
「………」
「照れんなよ」
「照れてないし、ばか」
くっと笑った西原は、ふざけるようにぎゅうぎゅうとむつを抱き締めた。腕の中できついのかむつが、変な声を上げていた。
「さて、帰るか。あんまり山上さん待たせてるのも、あれだしな。嘘ついてるわけだから」
「あ、そっか…」
渋滞に巻き込まれて事務所に戻るのが遅くなると、伝えてある事に気付いたむつは申し訳なさそうな顔をした。
「謝っといてくれな。俺の分も」
「おっけ、2回謝る…って先輩は顔出さないで帰えっちゃうの?」
「俺が居たら、話出来ないだろ?」
「戻ったら話せと?」
「話せ。報告待ってるからな」
くっくっくと笑い、むつの背中をぽんぽんと叩いた西原は、車に戻ろうとむつを促した。