1話
「そんな事ないし…ポーカーフェイスばっちり」
「いや、嘘だろ。祐斗君もむつが元気ないって言ってたからな…様子が変なのは気付いてるだろ、みんな」
「しろーちゃんにバレてないならいい。問い詰められると…怖いもん」
「あーあの優しい声で詰めてくるもんな。しかも淡々と、あんな取り調べは受けたくないよな」
分かる、分かると西原が頷いている。一緒に働いていた事のある、西原だから分かる事なのだろう。
「で、俺も相談相手にはならないか?」
「…ならない、かな。誰なら相談出来るかも分からない…社長に話しても…どうなんだろ」
まだ鼻をすすってはいるが少し泣いて落ち着いたのか、むつは顔を上げた。頬に添えられている西原の手を見ているようで、視線はもっと先を見ているようだった。
「そうか…」
西原はむつの頬から手を放すと、ふらっと倒れるように柵に寄りかかった。一緒に引き寄せられたむつが、小さく悲鳴をあげた。
「ばっ、ばか…落ちたらどうするのよ」
「柵あるだろ?寄りかかったくらいで壊れたら…手抜きにもほどがあるな」
すっぽりと腕の中におさまり、西原に体重を預けるようになっているむつは、体勢が悪いようで、身体に力が入っている。