1話
くぅぅっと食いしばった歯の隙間から漏れるような声と、ずっ、ずっと鼻をすする音を聞きながら西原は、ふっと笑みを漏らした。
「うぅっ…笑ったでしょぉ」
声を震わせ、鼻をすすりながらむつが言うと、西原は背中に回していた手を頭の後ろに持ってきた。ほつれている髪の毛をもてあそび、マフラーの下から手を入れて首を触ると熱いくらいだった。西原の手は、ゆっくりと前に回され首筋から鎖骨をなぞった。
「…山上さんにさ、理由から話してみたらどうだ?湯野さんと祐斗君にも。どうにかなる事なら、協力して貰えよ。あの3人、絶対に何とかしようとしてくれるぞ」
「言えたら、もっと前に話してる…」
「そんなに言いにくいのか?」
頷いたむつの目元からまた涙が溢れたのか、首筋に温かな水滴が流れシャツがしっとりと濡れていく事を感じた西原は、そろそろと手を持ち上げてむつの頬に触れた。
「宮前さんにも?」
「…相談相手に含まれてない」
「何で?お兄さんだし、あれだろ?好きなひ」
顔を上げないまま、むつは西原の顔をぺちっと叩いた。痛みなんか感じる事はなく、ただ恥ずかしがってる事に気付いてる西原はくすくすと笑った。
「分かりやすいなぁ」