1話
畑ばかりの道を抜け、坂を登ると西原が目的とした場所にたどり着いた。元々、何があったのかは知らないが開けた場所で、先客の車が1台停まっていた。西原はその車とは十分に距離を開けた所で車を停めると、エンジンを切った。
「寒いけど、出ないか?」
「うん」
西原にコートを渡し、むつもコートを着ると車から降りた。山の上まできているから、気温は低いし風も強かった。だが、目の前に広がる夜景を見るとここだからこそ、と思えた。県内と隣の県を一望出来ると言われている場所で、夜景を見に遠くから来る人も居ると言われているほどの場所だった。
「無事に来れて良かった。むつのおかげだな」
コートの袖を引っ張り、手を中に入れているむつは、西原の方を見て少し首を傾げた。はぁとマスクの中で息をつき、むつは夜景に視線を向けた。
「…ここの夜景好きだもん。あれ以来、来てなかったけどね」
「俺も」
「…そっか」
「しばらく来ないうちに柵が出来てるな」
西原は胸の高さまである柵に腕をかけて、下を見下ろした。真っ暗な闇があるだけで、高さがどのくらいあるのかさえ分からない。
「危ないからだろうね。転落でもあったのかもしれないし」
「ここで転落か…怖すぎる」
むつも西原の隣に立って、下を見下ろした。
「落ちるなよ?」
「大丈夫。この柵の隙間じゃつっかえる」
太い丸太風のもので作られている柵の間で、手を広げて見せたむつは、うん、通り抜けられないと呟いた。