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1話
そうねぇと興味なさそうな返事をしたむつは、紙袋を掴み手を突っ込んで詰め合わせになっている焼き菓子を取り出した。そして、空になったカップを中に入れた。むつが片付けを始めたのを知ると、西原は冷たくなったコーヒーを飲み干した。むつもココアを飲み干すと、紙袋に入れた。
「それ、良かったら食べてね」
焼き菓子の詰め合わを狛犬の前に差し出すと、狛犬は袋とむつを交互に見た。
「良いのか?」
「うん。でも、独り占めはダメだよ」
狛犬が悩んだように受け取らないでいると、目の前に置いてわしわしと狛犬の頭を撫でたむつは、ゴミの入った紙袋を持って立ち上がった。
「…ありがとう。気を付けて帰れよ」
「うん。ありがとう。まったねぇ」
ひらひらと手を振って、むつは軽い足取りで石段を下り始めた。西原はやけにあっさりなむつを気にしつつ、ちらっと狛犬を振り返ると、じっとこちらを見ていた。何となく寒気を感じた西原は、むつを追ってぱたぱたと石段を下りていった。