1話
「…えっと、つまり?」
地蔵と菩薩の事について、浅くではあるが分かっているむつだが、何で狛犬が地蔵の事について、知っているのかをたずねた理由が分からず、どう話を進めていけばいいのかが、分からなかった。
「………」
狛犬が顔を上げて、むつの顔をじっと見た。むつはカップを口につけたまま、狛犬からの返事を待っている。
「分からない。神と仏は違うから」
「あ、そう…そっか。だよねぇ」
がっかりした様子のむつではあるが、神に仕える狛犬が地蔵のある道に霊が溢れている理由が分かるはずがないかと、むつは納得していた。
「…にしても、どうすっかなぁ」
明らかに地蔵の件と、西原からの依頼の件は無関係にしか思えない。だからといって、このまま地蔵をほっておく事も出来ない気がしていた。
「何を?」
「うん?お地蔵様。ほっとくと、あれじゃどうなるか分かんないよなーって。で…」
続きを言いかけたむつは言葉を切った。西原と狛犬が何かと注目をしていると、カップを床に置いたむつは口に手を当てて、は、は…と言った。
「ふぇっくしゅっ!!」
くしゃみをしたむつは、ずっと鼻をすすった。寒いのかマスクをしてマフラーを持ち上げて、すっぽりとマスクの上をおおった。
「中、入ればいいのに」
「入らないわよ」
かちかちと歯を鳴らしながらむつが言うと、狛犬はやれやれといったように、ゆるゆると頭を振った。
「帰りなよ。風邪引くよ?」
狛犬にそう言われたむつは、頷いた。