1話
「先にその人が連れてきた子…我に気付かなかったけど、地蔵には気付いてた」
「子…あ、祐斗ね。あの子もね、あたしと一緒に働いてるの。でね、あたしはむつ。こっちは西原」
「…むつ、か。覚えておくよ」
ふんっと鼻を鳴らした狛犬は、むつの太股に顎を乗せた。石で出来ているはずなのに、暖かくそして柔らかい。だが、大きいからなのか、石だからなのか重たい。
むつは狛犬にじっと見つめられ、薄く口元に笑みを浮かべるとその頭をゆっくり撫でた。
「お地蔵様の所…凄い事になってたね。どういう事?何が起きてるの?」
「むつは地蔵が何か知ってる?」
狛犬の頭を撫でていた手を止め、むつは考えるように空を見上げた。真っ暗になった空には、星が輝いているが、綺麗にみえるぶん、寒々しくも感じられる。
「地蔵菩薩だっけ?子供と旅人を見守る。その程度しか知らないけど…」
「それだけでも知ってるのか。むつは凄いな」
「宗教的なのはちょっと苦手なんだけど…菩薩って仏になる為に悟りを開いて衆生を救おうと修行をする者だっけ?」
当たってるかな?と自信なさげにむつが言ったが、間違ってはいなかったのか、狛犬は満足そうに頷いている。
「衆生って何だ?」
むつよりも分かっていない西原が聞くと、むつは生きてる者、主に人だよと簡単な説明をした。
「難しい言葉だな。お前といると勉強になる」
話を続けてくれと、西原はコーヒーをすすりながら、むつから視線を外した。だが、興味があるのか、妬きもちなのか狛犬には、ちらちらと視線を向けている。