1話
「お前、大丈夫か?」
「…はぁ…身体が重たい…ダイエットしないと」
「少し痩せたのに?」
石段を登っただけで息切れしているむつと、しれっとした西原が境内に着くと、待ちくたびれたように狛犬が座っていた。すっかり暗くなった境内には、明かりは何も点いておらず、その中でぼんやり浮かび上がるように座っている姿は、少し不気味な物でもあった。
「噂では聞いてたけど…変わった子だね」
急に聞こえてきた第三者の声に西原は、きょろきょろと辺りを見回した。だが、居るのは息を切らせているむつと目の前の大きな犬だけだ。西原は信じられない物を見るように、狛犬を凝視している。
「狛犬だもん。喋るわよ」
「え、あ、そうなのか?狛犬って…いや、いやいやいや、違うだろ?狛犬は石だろ?このワンちゃんは何だ?妖か?喋ったの、この犬だろ?」
「…先輩ってさ、驚きはするけど怖がらないよね。何で?」
「そりゃびっくりするだろ。でも、怖くはなないな。悪い子の感じがしないから」
子と子供を扱うかのように言われた狛犬だが、悪い気はしないのか、ふさっとした尻尾をぱたっと揺らした。
「当たり前でしょ?神様にお仕えしてる子だもん。怖い顔のわりには大人しいわよ。はぁーとりあえず疲れた。休憩」
むつは拝殿の木で出来た階段部分に腰を下ろした。狛犬もとことことついていく。
「ね、噂ってなぁに?あたしの?」
「うん。妖を退治もするし助けもする…変わった人間が居るって。周りにも妖が居て一緒に過ごしてるっていうのは本当?」
低い声のわりに話し方はフランクで、親しみやすさがある。というより、話し方が、子供のようでむつと会話をしていると同年代同士の会話にしか聞こえない。
「まぁ本当かな。あたしも色々、助けて貰ったりしてるし…一緒に楽しく過ごしてるかも」




