1話
商品を受け取ると、むつは西原を引っ張るようにしてさっさと店から出た。誰が迎えに来たんだよと、西原は少し苛立った様子ではあった。
「お待たせしました」
むつは声をかけたが、その目の前には誰も居ない。子供か何かかと思い、西原は不思議に感じつつも、むつの隣に並んで相手を見た。だが、そこには誰も居ない。居るのは店内から見た、大きな犬だけだった。
「…むつ?誰に声をかけてるんだ?」
西原が心配そうに声をかけると、目の前の大きな巻き毛の犬の方に手を向けた。
「…どうした?大丈夫か?何か、何かさ、会った時から今日は様子がいつもと違うなとは思ってたよ。さっきも何があったのか知らないけどさ…でもさ、犬に声かけるのは…大丈夫か、お前」
むつがおかしくなったのだと西原は本気で思っているようで、物凄く心配そうに、そして優しげに言っている。だが、むつはくすくすと笑うだけだった。
「さっきの神社の狛犬さんだよ。お話あればってあたしが声かけたんだよ?」
巻き毛の大きな犬は、ふんっと鼻を鳴らした。人をこばかにするような態度ではあったが、むつは気にもしていない。大型犬よりも大きく、太い犬歯がのぞいているが、むつは気にせずに狛犬と呼んだ、大きな犬の顎を撫でた。
「ここじゃなんだし…車行く?神社のが良いかな?あそこなら誰も来なさそうだし」




