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6話
「だろ?それに、むつでもナンパされるって分かったからな。変なのが寄り付かないうちに…他人に触られてるのはムカつくしな」
むつが西原を見上げるようにして見ると、西原は少し頬を赤くしていた。むつもほんのりと頬を赤くしている。2人きりでは会わないと言ったし、触られるのが嫌だと思ったが、今はそんな事気にもならなかった。むつは足下を見て、口元に浮かんだ笑みを隠して、少しだけ西原の手を握り返した。西原はぎゅっとむつの手を握り、それ以降は照れ臭いの会話がないのか、2人は黙ったままだった。
少し歩いていき、古いビルの1階にある小さな店の前までやってきた。西原がそこのドアを開けて、むつを先に入れた。
「宮前さん、奥に居るだろ?」
「あ、いた」
年季の入った店内の奥にあるテーブルで、つまらなさそうにビールを呑んでいた冬四郎は、むつに気付くと片手を上げた。むつはカウンターの店員に軽く頭を下げて、当たり前のように冬四郎の隣に座った。それを見て、西原は溜め息をついた。




