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6話
スキニーパンツにブーティ、襟ぐりの広い藤色こニットと少し丈の短くネックジャップの上着に、赤いマフラーに眼鏡スタイルのむつは、白い息を吐きながら西原を待っていた。仕事と言って出てきたわりに、鞄は持たず財布も携帯もタバコもポケットに突っ込んでいた。最寄り駅に着く前にメールしておけば良かったと、少々の後悔があった。
「ねぇねぇ、お姉さん1人?」
「何待ち?暇なら俺らと遊ばない?」
うるさく、しつこいナンパにうんざりしながらむつは、仏頂面をしていた。
「そんな顔しないでさ、俺らだって美人と遊びたいわけ。分かる?」
美人じゃないから分かりません、とむつは心の中で呟いて無言を貫いていた。
「さっきから見てたけど…待ち会わせのわりに全然、そんな人来そうにないし。寒いっしょ?一緒に暖かくなる事しちゃう?」
ぎゃはははと下品な笑い声を響かせる、男たちに対してむつは首を傾げた。確かに、西原はなかなか来ないが、来ると言った以上、来ないはずはない。




