6話
軽く化粧をして、ぼっさぼさの髪の毛を菜々に手伝って貰って直し、お団子にして簪も刺した。そして、着替えを済ませると冬四郎に言われた通り電車に乗り込んだ。帰宅時間のせいか少し混んでいるが、満員電車というわけではない。途中の駅で電車を乗り換えた。乗り換えが上手くいかず、目の前で電車が発車したが急いでいるわけではないし、次を待つ間にプラスチックの冷たいベンチに座って待っていた。仕事帰りのサラリーマンにOLに混じってたまに、変な気配があった。妖が人の社会に混じって生活している事は多々ある。今までは気にもしていなかったが、今はやけにそれさえも気になる。
能力が使えなくなったから、過敏に反応し過ぎなのかもしれない。それは無意識のうちの恐怖でしかない。むつは知らずの知らずのうちに、周りに対して不信感ばかりを抱いていた。それに気付いていないのか、むつはベンチに座ったままじっと気配を追っていた。そうしている間に、電車がやってきた。乗らなきゃいけない事に気付いた時にはドアがしまっていた。
溜め息をついたむつは、また次の電車を待つ事しなかった。気配は電車と共に行ってしまったのか、全く感じなくなった。ようやくやってきた電車に乗り込み、むつは折よく空いた座席に座った。暖房がよく聞いていて暖かい。だが、むつは何となく寒さも感じていた。




