1話
西原は名残惜しそうに手を離して席に座るとコートを脱いで、丸めると隣の空いている席に置いた。むつは手袋、マフラーとマスクとを外し、コートのボタンを外して脱いだ。むつが脱いだりしている間に、西原は店員を呼んでむつの分まで注文を済ませていた。椅子にコートをかけ、マフラーを畳んで隣の空いている席に鞄と一緒に置いた頃には注文した物が届いた。
「早い…」
「暇なのかもな」
西原はむつの方にカップを寄せた。むつは頂きますと呟いて、両手で甘い香りのするカップを持ち、むつはふぅふぅと冷まして一口飲んだ。
「はぁ…」
「ようやく、落ち着いたか?顔の赤みも引いたな」
手の甲で頬を撫でられたむつは、また少し顔を赤くした。それを意識するとますます顔が熱くなる。
「今度は耳まで赤いぞ?急に暖かい所に来たから、暑くなったのか?」
心配そうに言われると、むつはぶんぶんと顔を横に振った。マフラーを外した時の静電気でか、髪の毛が少しほつれたりしている。西原はそれを撫でて直してやると、コーヒーを飲んだ。むつがちびちびとココアを飲んでいるのを西原は、面白そうに眺めている。
「…何よ?」
「いや、可愛いなーと思って。何かデートみたいで新鮮だしさ。ほら、呑みには行くけど、お茶ってなかなか無いだろ?」
赤い顔をあげたむつは、考えるように首を傾げてそうかもと呟いた。