6話
むつが頷くと、颯介はたい焼きの乗っている皿をむつの方に押しやった。むつは1つ取ると、ぱくっと口にくわえた。もそもそと、大して美味しくなさそうに噛んでいる。
「ま、ゆっくりやりゃいい。むつにとって、普段なら味わえない経験も大切だからな。自分の一部を失った事も、周りにもっと頼るのも、守られるのも…」
もそもそとたい焼きを噛んでむつが飲み込むのを見てから、山上は意地悪そうに笑った。
「おーじさまが迎えに来るってのもな」
もう一口頬張り、噛んでいたむつは、山上の王子さまという言葉を聞いて、ごふっとむせた。
「王子さま?何の話ですか?」
ごほっごほっとむせて、喋れないむつに聞くではなく、颯介は山上に聞いた。
「王子さまがな、むつが危ない時は駆け付けるって言ったそうなんだよ。今回は、遅かったそうだけどな。なぁ、むつ?」
お茶でたい焼きを流し込み、それでもまだ少しむせながら、むつは山上を睨んだ。
「誰っ、が言ってたの?」
「祐斗。むつさんの王子さまって…って愚痴みたいな報告のメールが届いてたんだよ。見るか?」
「見ない‼消して‼」
「消す前に、俺は見たいです」
颯介が挙手をして言うと、むつは全力で首を振って否定した。山上は、からからと笑うだけで、見せるとも消すとも言わなかった。




