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5話
むつが冬四郎にもたれて甘えていると、立て付けの悪いドアを軋ませて開け柔和な老人が入ってきた。
「ご無事かな?散々な目に遇いましたな。寒いかもしれませんが、ここをご自由にお使いください」
土地神は、ポットと湯飲みを置いた。冬四郎にくっついていたむつは離れると、正座をしてきちんと頭を下げて礼を言った。祐斗たちもむつに習って頭を下げた。
「…にしても、また壊されてしまいましたな」
「地蔵ですか?」
土地神が悲しげに頷くと、むつと祐斗は顔を見合わせた。そして、ばたばたと走って出ていった。外に並べてあった靴に足を突っ込み、石段を駆け下りていくむつと祐斗の競うようにしてまだ朝陽が顔を出すには早い暗い大通りを走った。角を曲がって細い道に入ると、むつと祐斗は立ち止まった。
ついさっきまで居た場所だったが、景色は全然違っていた。地蔵は粉々といってもいい程に壊され、跡形もない。唯一、転がっていた頭部だけが悲しげにむつと祐斗の方を向いていた。




