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5話
ぐずぐずと鼻をすすり、ううっと声を噛み殺しているむつを冬四郎は、ぎゅうっと抱き締めた。むつも冬四郎にしがみつくようにしている。
「負けましたね」
そろそろと西原の隣に移動した祐斗が、ぼそっと呟くと西原はぱちんっと祐斗の頭を叩いた。祐斗と西原のやり取りが聞こえていたのか、冬四郎がちらっと2人を見てふっと笑った。
「あ、そうだ。むつ…これ」
冬四郎はむつを抱き締めたまま起き上がり、ズボンのポケットをまさぐった。ちりんっと控えめな音をさせて、小さな鈴が出てきた。冬四郎はむつの髪の毛をよけてから、そっとネックレスを首にかけた。細いチェーンが千切れているからか、冬四郎はとりあえずといった感じで固く結んだ。
「ありがとう」
「取られなくて良かったな」
「うん。良かった」
ぱっとむつが嬉しそうな笑みを見せた。本当に喜んでいるような、明るく無邪気な笑顔だった。冬四郎は、その笑顔の目に浮かんでいた涙を指で拭った。




