1話
しゃがんで地蔵を見ていたむつだったが、ぞくぞくっと寒気がした。腕にびっしりと鳥肌が立つと、すっくと立ち上がりむつは地蔵もそのままに、ぱたぱたと西原の所に戻って行った。うようよ、うろうろしている霊を避けるのも面倒になったのか、ぶつからないのを分かっているむつは、そのまま突き抜けていった。
ぱたぱたと走っていくと、西原は驚いたような顔をしている。むっつりとした顔のむつは、そのまま西原に抱き付くとはぁぁと息をついた。何が何だか分からないものの、西原はちゃんとむつを抱き止めている。
「どうした、何があった?」
そんなに長い距離を走ったわけでもなく、全力疾走だったわけでもないのに、むつは呼吸が上がっている。心臓も相変わらず、ばっくんばっくんと高鳴っている。
「…むつ?とりあえず、無事なら離れないか?薄暗くても人通りあるからな…ちょっとな」
珍しく西原が狼狽えると、むつはあっと言って素早く離れた。だが、すでに多くの人たちには目撃されている。知り合いが居ないというのが、不幸中の幸いだろう。
「ご、ごめん…」
「いや、嬉しいけどな」
照れたように西原が言うと、むつは顔を赤らめた。西原もほんのりと頬が赤くなっていた。