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5話
「む…」
「むつ‼」
境内に戻ると、むつはまだうずくまったまま地面に倒れていた。冬四郎が声をかけようとしたが、西原が声をかけながら駆け寄っていくと、声をかける事をやめた。その代わり、狛犬の台座にぶつかり気絶して倒れている祐斗の方に向かった。
「あ…息はあります」
「それは良かった。こんな事で死なれたら夢見が悪くて仕方ないからな」
ほっとしたような西原の声に、冬四郎は苦笑いを浮かべた。しゃがみこんだ冬四郎は、祐斗の顔の前に手をかざした。こっちも気絶しているだけのようだ。
「おっさん、西原。2人を中に」
狛犬は顔と前足を使って本殿を開けると、中にむつと祐斗を運び入れるように言った。
「この寒いのに野晒しじゃ可哀想だ」
「…死体みたいに言うな」
冬四郎は祐斗を抱き上げ、西原はむつを抱き上げると、狛犬に後に続いて本殿の中に入った。中もかなり寒いが、風がないだけましな気がした。




