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5話
冬四郎は、うずくまっているむつと逃げた女の後ろ姿を迷うように見たが、西原が先に女を追って走り出すと、冬四郎も遅れて走り出した。ちらっと振り返ると、狛犬が心配そうにむつの側に寄って顔を押し付けていた。
女は神社の裏手に回って、がさがさと枯れ草を掻き分けて走っていく。そんなに早くはないが、草が邪魔をするし街灯のない闇に、月と星の明かりしかない。
西原が懸命に追い、手を伸ばせば届く距離まできていた。逃すものかと、西原は手を伸ばしたが、逃げていく女も必死だ。くるっと振り返ると、西原の腕を掴んで軽々と放り投げた。枯れ草がクッションになってくれたおかげで痛みはないが、その間にがさがさと音が遠ざかっていく。冬四郎がまだ諦めていないのか、追いかけていく。だが、その冬四郎も急に足を止めた。
「宮前さん?」
急に足音が聞こえなくなり、西原が枯れ草を掻き分けて進んでいくと、冬四郎は悔しそうな顔を西原に見せた。
「逃げられた…」
冬四郎が足元を覗くと、追い付いた西原も同じように足元を見た。足のすぐ先に地面はない。ぽっかりと口を開けたような暗闇があるだけだった。




