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5話
女の腕に足を絡ませ、両手で下に押すようにしながらむつは身体を反らせた。あっと思った西原は、むつの腰に手を回した。それを見て冬四郎が女の背中に体当たりをくらわせた。
ぐらっと前のめりになった女は、それでもだんっと石段に足をついて何とか落ちるのだけは免れた。むつなのか女なのか分からなかったが、西原には苛立ったような舌打ちが聞こえていた。
「…ひっ」
今度の悲鳴はむつだとすぐに分かった。無理矢理体勢を整えようとした女はむつを振り上げて、冬四郎に背中を預けるようにして体重をかけた。むつと女の2人分の体重がかかり、冬四郎はよろめいたが、そのまま境内の中程まで引っ張れたら、むつが落とされる心配はなくなると思った。
しっかり地面に足をつけた女は、むつを玩具のように振り回して西原の手をほどかせて、振り向きざまに冬四郎にもむつをぶつけた。
「いっ…てぇ…むつ‼」
結局、石段の上からは離れたもののむつは首を掴まれて、高く持ち上げられ宙ぶらりんになっている。




