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5話
むつは頬をかすめて、壁に突き刺さったバットを見た。これだけの威力があれば、地蔵が壊すことなど朝飯前だろう。
頬から、とろっと流れた血を拭って、むつは女を見た。バットはないし、狛犬に噛み砕かれた腕からは、ぼたぼたと血が落ちている。だが、それでもむつを睨んでいる。むつも睨み返してはいるが、壁に手をついてようやく立っている状態だった。むつも女もまともに戦えるような状態ではない。それでもお互いに退こうとはしないのは、女の意地なのだろうか。
祐斗は植木に阻まれながらも、顔をあげてむつと女の睨み合いを見ていた。その睨み合いも長くは続かず、女が先に顔を背けた。逃げるつもりなのかもしれないが、その顔には何とも嫌な笑みが浮かんでいるのにむつは気付いた。
ぱっと走り出した女をむつは当たり前のように追って走り出した。身体じゅうが痛くて、がくっと膝から崩れ落ちそうになったが、ぎりっと歯を食いしばり、走り出した。
「ちょ…むつ、むつさんっ‼何で…もう!!何で追うんですかーっ‼」




