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5話
「狛犬っ‼」
ずっと静観していた狛犬が、女の腕にがぶりと噛み付いている。元が石なだけあって重いのか、女の腕ががくんっと下がった。噛まれた箇所から、ぼたぼたっと血が落ち、めきめきっと嫌な音がしている。狛犬がさらに力を込めて牙をたてると、べきんっと音し女の腕がだらんっと垂れた。
腕が落ちると狛犬は、ぱっと離れたがバットを持ち変えた女は素早く狛犬を打ち据えた。ぎゃんっと狛犬が鳴くと、むつの指がぴくっと動いた。気がついたのか、壁に手をついてよろよろと立ち上がった。
「むつ、逃げろ‼」
むつがはっと顔を上げると同時に、びゅんっと何かが飛んできて、がつんっと壁に刺さった。目を見開いているむつは、そろそろと顔のすぐ横に刺さった物を見た。
叫んだ狛犬は、女に投げ飛ばされて祐斗同様に植木の枝をばきばきと折りながら突っ込んでいた。
「ゆ、祐斗、狛犬…」
何が起きているのか咄嗟には分からなかったのか、むつは顔を振った。そうすると、頭を打っているせいか、くらっとした。だが、どういう状況なのかは、はっきりと分かった。




