1話
西原の返事を待たずに、むつは背を向けるとすたすたと道を入っていく。一緒に行きたかった西原だが、行った所で何も出来ないし、むつの迷惑になると思うと、心配ではあったが待つしかなかった。
白い手袋をしたままのむつは、走ってきたにも関わらず、今度は息も上がっていなかった。だが、妙に心臓がばっくんばっくんと高鳴っている。その理由は、はっきりと分かっていた。祐斗が負けるのもそのはずで、かなり大量の霊がこの細い道の、それも一部に密集している。
1人で行くと言ったものの、不安になったむつは立ち止まり振り返ると、西原は言われた通りに待っている。待てをさせられている犬みたいだと思った。ちゃんと居てくれてると分かると、むつは地蔵の前まで歩い行った。
入り口から大して距離はないのだが、霊がうようよ、うろうろとしていると、なかなか前に進めないような気がしていた。避ける必要はないのだが、人混みで混雑している場所を歩いているのと気分的には変わらない。西原の方を振り返り振り返り進んでいたが、霊が多すぎて西原の姿もだんだんと見えなくなってきている。
不安が大きくなってくると、心臓の音も大きくなってきていた。だが、仕事で来ている以上は、むつも引く事は出来ない。