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5話
危ないから下がってろと、むつは言いたいようだったが、下がっているわけにもいかない。祐斗は駆け寄って、むつを支えるようにして立たせた。
「すっごいですね…女の人とは思えない力」
「…人じゃないんじゃない?」
「妖怪ですか?」
「そんな感じもしないけど…」
痛たたと腰を擦るようにしながら、むつは正面から女を見た。前髪で隠れているさいで、顔は見えない。どっからそんな力が出せるのかと思うくらいに、手足も身体の線も細い。
「火事場の馬鹿力ってやつですか?」
「さぁ…でも、地蔵壊しの犯人なのは確定だよ」
むつは祐斗から離れて自分の足でしっかりと立つと、女を睨むようにして見た。女の表情は分からないが、邪魔をしたむつに対して怒っているかのようだった。
「…時間稼がないと」
「どうします?」
「出来たら、押さえちゃいたい。でも、しろーちゃんと先輩に任せて逃げたい。早く来ないかしらね」
はぁとむつは溜め息をついた。こんなにも困った状況にたたされているというのに、冬四郎も西原もまだやってこない。




