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5話
かなりの勢いがあったのか、鼻先をかすめると、ちりっと痛みと熱さを感じた。驚いたむつが、ずりっと後退りをすると女は1歩踏み出した。
普段、日本刀を振り回しているむつだったが、相手がそれに近い形状の物を振り回すとなると、なかなかどうして手の出しようがない。卑怯だと思ったが、普段は相手から自分もそう思われていたのかと思うと、少し申し訳ないような気持ちになった。だが、今はそれどころではない。
バットを振りかざす女に素手で、どう対処したものかと、むつは悩んだ。素直に殴られてやるのも、その場から退くのもばからしい気がしていた。
むつは構える事もせずに、バットにだけ目を向けていた。華奢な手足の女となれば、バットさえなくなれば勝ち目はあるように思えた。
女は歯を食いしばり、髪を振り乱してバットを振り上げた。
「むつさんっ!!」




