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5話
じゃりっと足音が止まると、むつははっとした。仕事中、それも何かが近付いてきていたのに、それに集中しきれていなかった。きゅっと目を細めて、むつは目の前の事に集中をしようと、気持ちを切り替えた。何であれ、狛犬が神社を汚したやつと言ったからには、殺人犯である可能性が高い。それを捕まえれば、冬四郎と西原の為にはなると、自分に言い聞かせた。
足音は立ち止まったまま、動く気配はない。むつは植木の枝の隙間から道を見た。華奢な細い足のようだった。それはちょうど、地蔵の前で立ち止まっている。辺りを警戒しているのか、身動きしない。むつも息を殺して、相手の様子を伺っている。
車も人も通らず、街灯はあっても暗く、しんとした静けさ、物を言わない浮遊霊だけの不思議な場所だった。ここに居ると、この世界には自分1人しかいないような錯覚さえ感じられる程の寂しさがあった。
だが、その静けさも長くは続かなかった。がつんっという音が響いた。音は立て続けに、がつんっがつんっがつんっと聞こえてきた。
むつは顔を上げて道を見た。




