5話
むつは深呼吸をして、公園の入り口近くの植木の後ろに隠れた。葉はなく、細い枝だかりだが、夜であれば隠れていても見付かりにくいだろう。
かんっかんっという金属音は、いつしかからからからからっという引きずられるような音に変わっていた。やけにゆっくりと近付いてくるようで、待っている間に緊張は大きくなり、心臓の鼓動が激しくなっていた。走ったわけでもないのに、呼吸が浅くなり息苦しさを感じた。緊張なのか恐怖なのか、むつにはどっちもなように思えた。何かあっても、すぐに飛び出していける自信もない。能力が使えないというのは、こんなにも不安で恐ろしくなるものなんだと改めて思わされていた。その不安と恐ろしさは、いつも当たり前にある物がない事に対する、寂しさと違和感でもあった。
無意識のうちに、むつは胸元に手をあてて服をぎゅっと握っていた。落ち着きのない心臓の音が、外にまで聞こえているようで、それが近付いてくるものにまで聞かれそうで、それだけでむつは怖かった。
両手で口元をおおって、大きくゆっくり深呼吸をした。袖を伸ばして口元をおおっているから、白い息が出る事はなかった。服からは洗濯したての柔軟剤の、自分の好きな香りはするが、それがいつもの臭いとも違うようで、より一層落ち着かない気分になった。




