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5話
上着を脱いで来たからだけではない寒気で、むつはぶるっと身体を震わせた。
「何で上着脱いだんですか?」
「…っ!!な、何で来たのよ」
肩越しに声をかけられ、むつは驚いて振り返った。四つん這いの姿勢の祐斗が、狛犬と共にむつのすぐ後ろにいた。近付いてきていた事にも気付かず、むつはかなり驚いているようだった。
「1人にしたら危ないと思って…西原さん電話出ました。宮前さんとすぐ来るって言ってましたよ。でも、何で西原さんに連絡を?」
「血の臭いがするから…たぶんどっかで殺したか、犯人だと思う」
ひそひそとむつが答えると祐斗は首を傾げた。血の臭いなんかしないからだ。血のついた人間が近くに居たとしても、臭いなんて分かるものなのだろうか。祐斗は怪訝な顔をした。
「…それなら、尚更むつさんを1人にしたら危ないって事じゃないですか。女の子なんですから」
「祐斗よりは、大丈夫だと思うけど?」
そう言われてしまうと返す言葉もなかったが、能力の使えないうえに、考えるより行動派のむつが何をしでかすかは分からない。何も出来なくても、側に居た方が、心配は減るような気がしていた。




