1話
「そう言えば、霊が出るって依頼よね?どこからの依頼なの?神主さん?」
「あぁ…」
はきはきと喋りさっきまでの様子とはがらっと変わったからなのか、西原は少しは気圧されたようだった。むつはそんな西原をほっといて、細めた目で辺りを見回した。
「そう。居ないと思うな、ここは」
神社には大して興味がなかったのか、むつの視線は下に見える大通りの方に向いている。冬で、木々の葉が落ちているから、道が見えている。夏場であればこの場所から、道を見る事は出来ないだろう。
「あ、あぁ…」
むつはすぐに祐斗の報告にあった地蔵のある、道がどこなのか分かった。細い道は他にもあるが、そこだとすぐに分かった。
「確かに、これは祐斗が気にするわけよ」
「何だ?何かあるのか?」
「…さぁ?」
寒いのかマスクをして、さらにマフラーを引っ張って鼻の辺りまで隠したむつは、マスクの中でむぅと唸った。じっと地蔵がある辺りを見て、嫌そうな顔をしたむつはコートのボタンをとめた。そして、何も言わずに石段を下り始めた。のんびり下りているのだろうと思ったが、足音は意外と早い。西原が慌ててついて行こうとすると、むつはもう半分ほど石段を下りていた。
「息切れしてたくせに、走るのかよ…」
まじかよ、と嫌そうに呟いた西原は仕方なさそうにむつを追って走っていく事にした。