5話
「ってか、むつさん。よく迷わずに来れますよね」
「え、だって2回は来てるし覚えた」
運転するからなのか、道を覚えるのは早いようで、むつはカーナビを頼るでもなくもうすぐ神社の前に差し掛かろうとしている。
「あ、あの犬…昨日の」
「ほんとだ」
少し先に、大きな巻き毛の犬がのっしのっしとゆっくり歩いて来ているのが見えた。やっぱり、よく出歩いてるんだなとむつは思うと、車を路肩に停めた。
「ちょっと待ってて」
後続の車がない事を確認し、むつは車から降りると、狛犬の前に出た。足を止めた狛犬が、道をふさがれ邪魔そうに顔を上げた。
「…あっ」
「こんばんは。この前は何で一言も喋ってくれなかったわけ?酷いなぁ」
しゃがんだむつより高い位置にある顔を手を伸ばして、ぐりぐりと撫でながら言うと狛犬はぷいっと顔を背けた。
「………」
ぐりぐりと撫でながら、むつはじっと狛犬の顔を見ていた。その目元は優しげに細められているが、笑っていない。
「土地神の付き添いで来たのは、あなたじゃないんだね?」
はっとしたように狛犬はむつを見た。
「性格が違いすぎるもんね。乗る?今日は…何かあったかなぁ?」




