1話
むつは西原から少し遅れて、ゆっくりと周囲を見ながら歩いている。薄暗くなってきて、街灯がちらほら点いてきている。4車線もある大通りではあるが、交通量は少ない。神社が近くなり、木々が見えてくるとむつは立ち止まった。相変わらず、ポケットに手を突っ込んだまま、他の通行人の邪魔にならないように端に避けている。
立ち止まったままのむつは、神社の方をゆっくり下から見上げていく。その目には何が映っているのか、無表情のむつからは分からない。通行人の合間から、西原が戻ってくるのが見えると、むつはふぅと息を吐いた。
「居なくなったのかと思った…」
「ごめん。あれが神社ね」
「あぁ。どうした?」
ふるふると軽く頭を振ると、束ねた髪に刺してある簪とピアスが揺れて、しゃらしゃらと鳴った。
「…そうか?」
こくっと頷いたむつは、またぷらぷらと歩き出した。西原はその横に並んで、むつの歩幅に合わせてゆっくりと歩いていく。初めて来た所を散歩するかのような足取りで、辺りを見回しているむつを西原は、注意深く観察していた。明らかに、いつものようにしゃきっとはしていない。だらけているのとは違うが、気が緩んでいるようにしか見えなかった。