182/753
4話
「むつ、そんなに記憶力良かったのか?」
「ん?うーん…何回も見てたら覚えるでしょ?しろーちゃんのもいちにぃのも覚えてるもん」
むつは恥ずかしいのか、狛犬を頭をわしわしと撫でた。そして、こつんっと窓に顔をつけた。その頬がほんのりと赤くなり、目が合った潤んでいるのを、冬四郎は見逃してはいなかった。
外をぼんやりと眺めていたむつだが、だんだんとほおの赤みが引いていくと、目付きも変わってきていた。今のむつは、余計な事など考えずに今から向かう地蔵のある場所の事を考えているのだろう。狛犬の頭をおざなりに撫でながら、むつはそっと溜め息をついた。
「むつさん、むつさん」
「なーにー?」
車内の沈黙に耐えきれなかったのか、祐斗が呼ぶとむつは、よこを向くようにして祐斗の方を見た。
「…あそこに行くんですよね?この前って、むつさんどこまで行ったんですか?俺、お地蔵はちゃんと見てないんですよ。近付きたくなくて…」




