4話
「…おいで、狛犬を押し付けられたなんて思ってないよ。どっちが良いかしら…ってバームクーヘンしかないか」
ぴりっと封を開けて、狛犬を手招きした。半分に割ったバームクーヘンを狛犬の口元に持っていき、残りをむつは口に運んだが、鼠がかじったような小さな一口だった。それを、ゆっくり噛んでようやく飲み下した時には、狛犬はむつの手に残っているバームクーヘンを見ていた。むつは黙って残りをあげた。
「お茶、淹れ直してあげるよ…コーヒーのがいい?」
「いや、気遣わなくていいよ」
「そう?」
何だか疲れた様子のむつだったが、それでも土地神が使った湯飲みを片付けつつ、冬四郎と西原に暖かい茶を淹れて戻ってきた。自分が使っていた椅子を片付け、むつはソファーに座った。コーヒーと灰皿を持って、山上もむつの隣に座った。
「受けるか?」
「悩む…いつもなら、すぐに受けるって言えるんだけどね。だって、ほらお金にならないよ?」
「まぁな」
むつと山上の会話を聞いて、ぴくぴくっと耳を動かした狛犬は首を傾げている。むつの側に居た狛犬は、慰めるかのように、ぽんっと膝に前足を乗せた。そして、むつの足元に潜るように顔を突っ込んだ。
「何?何してるの?」
ぱっと顔を上げた狛犬は口に何か袋をくわえている。そして、それをむつの膝の上に置いた。ずっしりと重みのある物だった。
「これ、なぁに?ねぇ、何で口聞いてくれないの?喋れなくなっちゃったの?」