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4話
「凄い…」
老人の手が優しく、むつの足を擦るように何往復かし、軟膏を肌にすりこませていく。すると、内出血し赤黒くなっていた肌も、擦れて血が滲んでいた箇所もみるみる、色が薄くなり傷が綺麗に消えていく。まるで早送りされているかのような、治癒にむつ自身も驚いてみいっている。
「ほら、綺麗になった。けど…」
手に残っていた軟膏も全て、むつの足に塗り込み立ち上がった老人は、むつに顔を近付けた。
真っ黒な目は底無しの沼のようで、その目を見ていると吸い込まれそうで、むつは目を反らした。
「…内側の傷には効かないんだよ」
とんっと胸をつつかれたむつは、ぐっとつまったように何も言えずに、ただ頷くだけだった。
「大丈夫かね?お若いお嬢さん」
「…はい。ありがとうございます」
むつはうつ向くようにして、頭を下げた。
むつと老人のひそひそとした話し声は、誰にも聞かれる事はなかったが、むつの様子からして何かを感じ取った者は居ただろう。




