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4話
「で、でも…脱がないとだから…」
「脱いでごらん…ほら」
老人は怪我を見せろと言って引かない。むつが困ったように、冬四郎の背中に隠れようとすると、老人はむつの手を取った。肩から下げていた小さな鞄から、緑色の包みを取りだし、中に入っていた軟膏のような物を指ですくうと、小指の付け根辺りにぬった。そこも、この前に転んだ時に擦りむいた箇所だった。
「あ…うっそ」
老人のしわがれた指が離れると、そこにはもう擦り傷はあとさえ残っていなかった。
「しろーちゃんっ‼見て、綺麗に治った‼」
むつは、驚きと喜びをまぜこぜにしたような顔で、冬四郎の目の前に手を突き出した。冬四郎も驚いたような顔で、むつの手を取って怪我のあった箇所をまじまじと見ている。
「ね?だから怪我も見せてごらんなさい。うちの狛犬のせいで痛んだのでしょう」
スキニーパンツだから、まくりあげる事は出来ない。そうなると、脱がなくてはならない。脱ぐのに抵抗はあるが、怪我は治したいむつは、悩んでいるようで冬四郎にどうしようという顔を見せている。




