4話
「大丈夫か?随分と好かれたな」
「う、うん…」
西原はいつもの調子だったが、むつは気まずそうに顔を背け、前足を持ち上げられている犬を見た。他に視線のやりようがなかったし、この犬が何なのかも気になっていた。
「…あ、あら、どうしたの?」
むつが親しげに声をかけると、犬は千切れんばかりに、ぶんぶんと尻尾を振った。西原の足に尻尾が当たり、ばしばしと鳴っている。その様子を見ながら、むつは、くすくすと笑いながら片耳にかかっているマスクを外し、眼鏡を拾って立ち上がった。
ちゃんと立ち上がったのを確認し、西原が手を離してやると、どたどたと阿汐とを立てて犬は、むつに飛び付いた。
「…っ‼たぁ…」
飛びか上がった場所が悪かったのか、むつはばんっと机に手をついて、足を押さえた。
「むつ、大丈夫か?」
飛び付いた犬を西原がまた捕まえている間に、ずっと静観を決め込んでいた冬四郎がむつの側に寄った。
「ん…痛かった、今のは…」
「怪我してるのかな?」
冬四郎の横から、柔和な表情の老人がむつの顔を覗きこんでいる。聞き慣れない声、見慣れない顔の老人に、むつは頷きつつ首を振ると傾げた。
「見せてごらん」
「え…でも、それは…」
「良いから、見せてごらんなさい」