1話
「祐斗、明日キツそうなら朝、あたしにメール入れてね。今日はゆっくり休みなね。お疲れ様、また明日ね」
支度が整ったのか、鞄を持ったむつはソファーに寝転んでいる祐斗の頭をくしゃくしゃっと撫でた。特に不機嫌そうな様子もなく、祐斗には笑みを見せている。だが、ふいに真顔に戻ると西原に行こうと言って、さっさと出ていった。
「…なぁ、機嫌悪いのか?」
エレベータに乗り込むと西原が、おずおずと聞きにくい事を直球で聞いた。むつはコートのポケットに手を突っ込んだまま、西原の方を向くと首を傾げた。コートはまだ新調していないのか、肩の所は応急処置なのか縫ってある。結局、むつが答えないまま、エレベータは1階に着いた。
2人は肩をすくめて足早に駐車場まで行くと、車に乗り込んだ。先にエンジンをかけ、2人はごそごそとコートを脱いだ。ここ最近は事務所で仕事をしているというむつは、珍しくもスカートをはいている。西原はようやくそれに気付き、祐斗が膝枕を遠慮した理由もようやく分かった。
「機嫌は悪くないよ」
「スカートだから出るのが嫌だったのか?」
むつが膝の上にコートを置くと、西原も後ろに置くのが面倒だったのか、むつの膝の上に置いた。
「まぁそれはある。寒いんだもん」
「なら、はくなよ。風邪引くぞ?」
「たまには、良いじゃん」
シートベルトをすると、むつはそれ以上会話をしたくないとでも言うように、ぷいっと顔を背けた。今度は本当に不機嫌にさせたな、と西原は思ったが言ってしまった以上はどうにもならない。こっそりと溜め息を漏らすと、ようやく車を発進させた。




