4話
むつにのし掛かっているのは、巻き毛の大きな犬で何を思ったのか、べろべろとむつの顔を舐めまわしている。
「うっ…うぇ、ど、どいて…ちょ…」
厚い下にべろべろと顔を舐め回され、むつは逃れようと、ずりずりと下がっていく。だが、犬はそれを阻止するように追い掛けていく。
「いやー…もう、な、何!!何なのってばぁ」
顔の前で腕を交差させ、むつは何とか犬の舌から逃れつつ、上体を起こそうとしている。むつが逃げようとすればする程に、犬は追い掛けていく。それを止めもせずに、颯介、祐斗、山上は唖然と見ている。
「何でっ‼もう‼見てないで…ちょっ、誰か…誰か、この子を…うえぇっ、は、そこ鼻っ…」
マスクは片耳しかついていないし、眼鏡は床に転がっている。むつは、自分の身体ほどはありそうな犬を押し退けようと、交差させた手を伸ばしている。
「ほら。そろそろ、むつが困ってるから…ちょっとどいてあげろ、な?また後でな」
ひょいっと犬の前足に手をかけて、むつから引き剥がしたのは西原だった。犬が大人しく離れた事より、むつにとっては西原も一緒な事の方が衝撃的だったのか、目を見開いている。