4話
マスクに眼鏡。珍しく長い髪をしばりもせずに背中に、流しているむつだが仕事の邪魔になるのか、時折つまみあげるようにしてどけている。眠たそうな目は、微笑んでいるような優しげな雰囲気を醸し出している。斜め前に座っている祐斗は、そんなむつをぼんやりと見ていた。
キーボードを叩く手を止めて、むつにみいっている祐斗の脇腹を隣の颯介がつついた。
「何か分からない所でもあった?」
「え、いえ大丈夫です」
「分からないなら、早めに聞きなよ。折角、今日は颯介さん居るんだから」
画面から、ついっと目を離したむつが言うと、祐斗はこくこくと頷いた。口調はゆったりだし、微笑んでいるような目元が何となく母性を感じさせる。
「あ、そう言えば領収書は?祐斗も颯介さんも仕事続きだったよね?まだ貰ってない気がするけど」
「忘れてた。ちょっと待ってて」
「はぁい」
颯介は、引き出したからレシートやら領収書やらを取り出してむつの方に差し出すと、むつは立ち上がって手を伸ばした。立っているむつは、ついでのように祐斗の方にも手を伸ばしている。むつを立たせている事に焦ったのか、祐斗は財布から領収書を取り出して、まとめて渡した。
詳しくは分からないが、同じ社員で肩書きもないとは言えど、颯介の方がむつよりも長く勤めているのか、颯介を先輩のように見ている節が所々にある。