4話
コーヒーを飲んで、山上からタバコを貰って一息ついたむつは、鞄から財布と携帯を取り出そうと、ごそごそと漁っている。すでに化粧するのは諦めているのか、マスクをしただけで化粧ポーチを取り出す素振りさえない。
「あ…携帯ない」
まぁいっかぁと呟いて、むつは鞄を片付けにロッカーに向かっていく。ロッカーの中に鞄を置いて、脱いだパーカーをかけ、そのかわりに置いてあるカーディガンを羽織った。歩くたびに痛んでいた絆、慣れたからなのか、気にしていないからなのか、すでに痛くはない。
席に戻り、パソコンが立ち上がるのを待ちながら、のんびりとコーヒーを飲んでいたむつは、天井の方に目をやり何やら考え事をしている様子だった。
「むつ、どうした?」
「えー?うーん…そういえば、今朝は何の気配もなかったなぁって…完全に分からなくなったのか、何も近くに居なかったのか…それも分かんないなぁと思ってさ」
「帰りは大丈夫だったのか?」
「ずっと、つけられてた。こさめが居たから、何とかなったんだけど…てか、しろーちゃんだったし」
「…みや?」
「うん。仕事で近くに来てて見掛けて、とか言ってたけど?仕事?あの辺管轄なの?」
「…さぁな。でも、そう言うならそうだろ」
「そうだね」
あまり気にもしていないのか、むつは頷くといつも通りメールボックスのチェックから始めた。




