3話
「写真送ったよーっ。で、むつこれってもしかして、夕雨さん?」
大きな翼を広げた背中の写真を、こさめが指差している。それは、太い枝に腰掛けている人の後ろ姿のようだった。
「そうそう。昨日もさ、夕雨さんの所に行っててさ。路面凍結でスリップでこけて、道路とバイクの間に足挟んで引きずって…この怪我よね」
むつが足を指差した。菜々とこさめは、うわーという顔をしている。
「夕雨さんの所に?仕事?」
「…ん、まぁね」
むつは顔を伏せるようにしてオリーブオイルの中に、残っている蛸や冷凍の海鮮ミックスなんかを入れていく。ニンニクが熱されたからか、食欲をそそるような香りが漂っているが、むつの表情はどことなく暗かった。
「…っていうかさ、その…せきうさん?何者なの?翼生えてるわよ?」
「夕雨さんは、天狗さん。前にさぁ、ひっどいめに合わされたの‼ねぇ、むつ」
「うん。ゴキブリと鼠の大群をさ…」
むつとこさめが交互に説明するのを聞き、嫌そうな顔をする菜々だが、むつがアヒージョ出来たと言うと、蛸を頬張りワインで流し込んだ。
「何なの、あんたの仕事って」
「何でも屋だからねぇ」
ビールを終わりにして、むつは苦笑いを浮かべつつワインをグラスに満たして、くいっと呑んだ。