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3話
山上の心配をよそに、むつはとろけるようなチョコレートケーキを頬張っていた。頬が痛くなりそうなくらい甘いそれは、むつの定番でもあった。
「…あ、ちょっとごめん。学園からだ」
むつとこさめはフォークを握ったまま、頷いた。菜々はいつもより少し高めの声で電話に出たが、地下にいるせいか電波が悪いようで、何度も聞き返したり言ったりしている。
「ごめん、外で話してくるね」
携帯を握り締めて、菜々が出ていくのをむつとこさめは笑顔で見送ったが、菜々がドアから出ると2人は示し合わせたかのように、すうっと真顔になった。デザートとして頼んだ、チョコレートケーキもイチゴのタルトも凄く美味しい。だが、2人は何かつまらなさそうな、不機嫌そうな顔だ。
「…何か居るよね…?」
「居るよね?事務所出てから、何かついてきてる気がしてたけど…やっぱ、むつも気付いてた?」
むつが自信なさげに言うと、こさめはこくりと頷いた。事務所を出てからすぐに何らかの気配は感じたが、妖も霊もそこらじゅうに居る。いちいち気にしていなかったむつだが、こさめがついてきてると言うならそうなのだろう。




