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3話
眼鏡を外したむつは、天井を見上げてしきりに目を擦っている。両手で口を隠してはいるが、欠伸をしているのはばればれだった。だが、まだ片付ける書類は残っている。かたかたとキーボードを叩き始めると、廊下を歩く足音が聞こえてきた。かつかつかつ、かつかつ、と2人分のヒールの音だろう。
ドアの前で足音は止まると、ノックの音が聞こえた。足音が聞こえていたのか、祐斗はすぐに立ち上がりドアを開けようとしたが、その前にドアはゆっくりと開いた。ドアの隙間から事務所内に顔を入れている女は、あっと声を上げた。祐斗もその女の顔を見て、あっと声を上げている。むつと颯介も声の方を見ると、驚いたような顔をしていた。
「…こさめ?」
むつが驚いたように言うと、こさめと呼ばれた女は、にんまりと笑って中に入ってきた。
「どうしたの?急に、篠田さんと一緒?」
「ううん、1人で。でも…」
こさめは廊下に向かって手招きをしている。
「…こん、にちはぁ」
ドアから顔を見せたもう1人の女を見て、むつは驚きのあまり声も出せないでいる。
「ごめん、来ちゃった…」