1話
「クリスマスも近いっつーのに、隣に居るのは二十歳も過ぎた男か。切ないなぁ」
「仕方ないじゃないですか。仕事ですから。それ言うなら俺だって、女の子と一緒が良かったですよ。てか、西原さん。二十歳過ぎてない男なら良かったんですか?」
西原と呼ばれた男は、フレームの細い眼鏡を押し上げて、隣に座っている男をちらっと見た。現職の刑事である西原駿樹の運転する車の助手席には、幼さの残る顔立ちをした谷代祐斗が座っている。
「いや、そうじゃないだろー。俺は仕事だから、さ…お宅の紅一点のむつが来るかと期待して待ってたんだ」
「紅一点のむつさんからの伝言です」
「おっ‼俺宛に?何だって?」
「もし、何か言ってたか聞かれたら忙しいって伝えといて、ですって」
「冷たいな…本当は忙しくないんだろ?」
「まぁいつも通りですね。けど、ここ最近はむつさん事務所です。出来そうな仕事を振ってくれてます」
「…で、本当は?」
「試験終わったんなら経験積みに行けと。暇なら働けって言われました」
「寒いから出たくないのかもな…」
「それもあるかもしれませんけど、事務処理も貯まってますから。あとは少し体調悪いのかもしれません…たまに元気ないって言うか…何か静かです」
「風邪か?」
「どうなんでしょう?マスクはしてますけど。乾燥と寒さ対策らしいですし」
「そうか。それでさ…ちょっと聞きたいんだけど、むつ何か欲しがってる物とかないか?」
然り気無く言ったつもりなのかもしれないが、西原の声は少し上擦っていた。月に何回か西原と会う祐斗には、その些細な違いがすぐに分かった。