食肉植物のスライムソース和え
お城の食事処
焼き、蒸し、揚げ いろんな匂いのする場所
1つの世界が3つの世界に分断され早、云百年
天界、人間界、魔界 この3つの世界は、それぞれの統治者によって見事なバランスの取れた平和な日常を送っている。
所詮世の中弱肉強食と言われながら、魔物だって人間の生活に欠かせない一部なっているのだ。
というより、天界が存在するからこそ、魔界が存在できるのだ。0から1が誕生というのはこういうことなのだろう。
「もうこんな時間か・・・たまには城の者の労を労いながら食事にするか」
窓から外を眺めた彼は、魔界に存在する城の主であり、魔族の王である。つまり魔王だ。
先代魔王はかつての大戦で勇者に打ち倒され、現在療養中なのだ。
そもそも魔王がそう簡単に死ぬことはないのだ。なんだかんだ派手な演出をして、その場からこっそり抜け出す。そうでもしないと、魔界はあっという間に無法地帯となり、モヒカンや棘の付いた肩パットをした荒くれもので溢れかえる。
そうならないために、魔王というのは存在しているのだ。
「さて・・・今日のランチはっと・・・」
説明が遅れたがこの魔王。今でこそ魔王を名乗っているが、ちょっと前まで時期魔王ということだったこともあり、まだまだ新米魔王なのだ。
「ああ!これはこれは魔王様!!!お呼び下されば直ぐにお持ちいたしますのに!」
食堂に到着した魔王に対して、深々と頭を下げる支給の女性。白い給仕服から伸びた赤い8本の足が目立つスキャラ。いつもの青系色と違い、鮮やかな色彩を放っている。色が変わるのは厨房が熱いからと顔を真っ赤にして言われた。と言っても、全身真っ赤なのでわからないものだ
「ところで、今日のランチはなんだ?」
「ランチですか?魔王様のご注文なら、どんなものでも御作り致しますが」
「いいのいいの。こうして城の者たちを同じものを食べてこそ親睦が深まるというものよ」
「わたくしは魔王様がそれでよろしければかまいませんが。あ!そうでした!ランチでしたよね。今日は『食肉植物のスライムソース和え』になりますよ」
「それを1つ。ここで食べて行くから」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します!」
「ゆっくりでいいから!!」
食堂に立ち込める様々な香り。スパイスの匂いが鼻腔を通り抜けると同時に柑橘系の匂いも押し寄せてくる。交じり合った混沌とした匂いなのだが、決して嫌ではない不思議なものだ。
忙しなく動く配給。非番の魔物。城の警備兵。どこに口があるのかわからないゴーレム。どうして食事ができるのか不思議でたまらないスケルトン。こうした多種多様な種族が一堂に会する場所など簡単には見つかるものではない。
(人魚が魚食ってていいのかよ)
いくら魔王だといっても全ての魔物のことを知り尽くしているわけではない。まだまだ知らないことだって存在する。例えば、天使と悪魔の間に子供は生まれるのか?なぜエルフは種族によって名称が変わるのか?水棲魔物なのに地上での長時間の活動が可能なのか?疑問は尽きない。考えていたら余計に腹が空いた。
「魔王様。お待たせいたしました。『食肉植物のスライムソース和え』でございます」
ちょうどいいタイミングだ。まるで計算されつくしたように持ってきた。
『食肉植物のスライムソース和え』
まるで肉を焼いたような香りが全身を駆け抜ける。スライムソースが味の決め手
(まるで分厚いステーキの様な弾力。そして生でも食べることのできる植物故の半生状態。これは内側がまだ生きている。少々食べ辛いが・・・いざ!!)
「!!?」
(な、なんだこれは!本当に植物か!?噛んだ瞬間から口全体に広がる匂い。舌の上で脂が解けソースと混ざりあう。分厚く弾力もあるが簡単に嚙み切れる。そしてなによりもこのシャキシャキとした触感!まるで肉料理に見えていたが、これは完璧に野菜だ。やられた。こんなものがあるなど知りもしなかった。思い返してみれば、家臣たちが毒味をしたあとに食事をしていたことが殆どだったな。こうして出来立てを味わうなど、最後に食べたのがいつなのか忘れてしまった)
(ご馳走様でした)
まるで分厚い肉を食べたような感覚が胃の中に広がる。香ばしい香りが内側と外側からくる。
これ以上ここにいると余計に腹が空いてしまう。部屋に戻ろう。
たまにはこうして食べるのもありだな
書いてるとお腹がすく