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ナナシス論  作者: 客野
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旧いネロの話

エピソードAXiS以降のAXiSを、私は知らない。かれらが更生したのかというエピソード的な話はもちろん、新しいカードや新曲が出たのかどうかさえ、全く知らない。

しかしそのような私でさえも、かれらの既に過ぎ去った、しかしナナシスの歴史に消えない爪痕を残した快曲、HEAVEN'S RAVEの印象は、臆せずに語ることができる。

エピソードAXiSの天神ネロは、人間を超えるギリギリに迫った。すなわち、生を、希望を、夢を、理想を、徹底的に捻り潰した。それはネロじしんを破壊することと同義であり、プロジェクトの失敗と自らの敗北を悟ったかれが身を投げ出す場面は、見ていてあまりに自然だった。それは春日部ハルをもって、「あなたと私は違う」と言わしめたほどの「何か」だった。

「お姉さんがアイドルで失敗して」「昔からニコルに似ていて」といった、これら分かりやすい理由にネロを押し込めて、「そうか、こいつにも考慮してやるべき事情があるのだな」と賢しらに頷くのは、何も難しいことではない。ただ、私はアグリが言った、「こういう風にしか、世界を愛せなかった人もいるの」という言葉が、今なお胸の内で反響している。絶対に底を照らし出せない暗黒こそが、私にとってのネロなのだ。

他方で、何をもっても救えなかったネロの闇は、この世界とは異なる、享楽の天国への扉を開いた。心が読めない他人も、今ここに無い理想も、自分の得にならない優しさも、ここにはない。HEAVEN'S RAVEが描くのは、一瞬の愉悦が何よりも優先される、そのような魔界である。そこには何も無く、ゆえにあらゆるものがある。この陳腐な逆説がぴったり合うのは、後にも先にもこの曲だけだ。

私は、HEAVEN'S RAVEを聴くと、とても楽しい気分になる。真夜中に出歩きながらヘッドホンで聞くのは、勝るものなく心地よい。そして聞き終わると、なんだか無性に悲しくなる。俺はいったい何をしているのか、と苦しくなる。ゆっくりと飛び降りたネロの顔が、ぼんやりと頭に浮かぶ。そして、さようなら、と呟く。天神ネロは生きているのに、もうどこにもいない。それが寂しくて、またHEAVEN'S RAVEを聴いてしまう。

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